運転者以外にも責任がある!運行供用者と民法715条の使用者責任
運転者以外にも賠償責任がある
福井県で2012年4月に起きた正面衝突事故の被害者側の会社に対し、損害賠償を命じる判決がおりました。
この事故では、加害者側の過失割合10対0と思われていた賠償義務について、被害者側の車両所有者に対しても損害賠償が求められました。
被害者側の運転者の無過失が立証できないことにより、自賠法3条による「運行供用者責任」が認められることになり、多くのネットユーザーからも注目を集めました
この事故では、加害者側の運転者の他に亡くなった被害者が車両所有者であることから、運行供用責任が発生していたという、特異な事故とも言えます。
この運行供用者責任、また、会社の業務でクルマを運行している際の事故で会社側に生じる、民法715条における「使用者責任」について、この事故を例に考察してみましょう。
会社が運行に関わる責任 民法715条
この事故で死亡したGさんの遺族ら原告によって、提訴された民事裁判では、加害車両の運転者Aさんの他に、被害車両の所有者E社に対し運転者Fさんの過失を訴えました。
原告側は、Fさんの使用者としての責任、また、F車の運行供用者責任、そして、民法709条における不法行為による、賠償責任を求めました。
E社をFさんの使用者にあたるとし、業務使用中に起きた事故ととらえ、民法715条における使用責任を問いました。
この主張は、退けられ次の自賠法3条における「運行供用責任」が認められました。
同様に運転者の過失が立証できないため、民法709条の不法行為も退けられたので、物損の損害賠償については、否認されたことになります。
所有者が運行に関わる責任 自賠法
自賠法(自動車損害賠償保障法)は、交通事故の人身被害者を救済する目的で作られた、交通事故の人身賠償の責任を取り扱う特別法です。
いわゆる、民法709条などの一般法と異なる部分があるのは、自動車事故の被害者を保護救済するための法律だからです。
そのために一般論でいうところの、白黒をつける、過失割合に準じる、などの常識感は、根本から覆されることもあります。
特に今回の事故はその典型の一つで被害者側が一転、加害者として訴えられ、「運転者の過失が有るとも無いとも言えない」ことから、自賠法に基づき賠償義務を命じる判決がおりました。
長く自動車保険を取り扱って来た、私も少し驚きましたが、自賠法3条における「加害者の無過失を立証できなければ有責」となることは、自賠責保険を取り扱う者なら常識の一つなので、なるほどと思いました。
今回は、Fさんに前方不注視の疑いがかけられ、その疑いを払しょくすることができなかったことで、無過失の立証が困難になりました。
自賠法における運行供用責任は、「自己のためにクルマを運行の用に供する者」と定義されています。
つまり、ここでいうところの運行供用者は、被害者側車両の所有者が被害運転者Fさんの無過失を証明できないために、賠償責任を認める判決になりました。
従って、過失は認められないが、無過失とも認められないので、自賠法に基づき賠償せよとなったわけです。
企業と従業員を守るための保険を選ぶ
今回の事故による教訓とアドバイスは、法人所有のクルマにも人身障害保険、弁護士費用特約、車両保険の無過失事故に関する特約、などを付帯して万全を期すよう検討して欲しいということです。
無保険車のために保険をかけるのは、一見無駄なことのように思うかもしれませんが、そうしたクルマが事故の相手になったとき、大きな損害を被るのは、会社と従業員だからです。
保険を無駄と考えず、転ばぬ先の杖として備えておくようにしましょう。
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