どちらの過失?群馬太田市の死者4名バイク軽自動車の右直炎上事故
2016年5月29日よく晴れた日曜日の朝、群馬県太田市の国道50号線「桐生バイパス」上にて、直進するバイクと右折中の軽自動車が衝突しました。
この右折車と直進車の衝突事故(以下:右直の事故)により、バイクを運転していた男性が大動脈損傷により死亡。事故直後からの車両炎上により軽乗用車に乗車中だった3人の女性が焼死するという、痛ましい事故となり一度に4人の尊い命が犠牲になりました。
車両の炎上と事故当事者が4人全員死亡というショッキングな事故だったこともあり、発生直後からニュースでも多く取り上げられました。
事故原因については、軽自動車の前方不注意による右折という一般的な見かたが多くを占める中で、直進していた大型バイクの速度についての疑問など、様々な意見が見られます。
この事故は、双方車両の運転者の自動車運転死傷処罰法違反について現在捜査中ですが、被疑者死亡による過失運転致死傷罪で送検されると予想されています。
今回は、現在公表されてわかっている事実、破損した事故車両の損傷状況などを見ながら、右直事故の過失割合について考察して参ります。
目次
バイクと軽自動車の事故で衝突炎上!事故発生時の状況
発生日時と場所
事故発生は、2016年5月29日(日)午前8時35分ごろ、太田市吉沢町の国道50号線と市道が交差する信号のない十字路で事故が発生しました。
まずは場所と道路の状態をgoogle Mapで確認してみます。
事故現場となったのは、国道50号桐生バイパスで、地図上の上部に赤文字で示す交差点が事故現場になっています。
現場付近の桐生バイパスは、南東方向から北西方向に10km/h以上、ほぼ直線の道路が続いており、一般道としてはかなり速い「60km/h」が制限速度になっています。
地図を拡大し衝突時の状況を見てみます。
バイクは桐生バイパスを原宿南から前橋方面に向かって北上し、軽自動車は原宿北方向から南下してきて、事故現場で細い市道に入ろうと右折しようとしたようです。
事故当日は日曜日の朝ということもあり、通常の平日と比べて交通量はかなり少なかったと考えられます。
当時、炎上する車両から撮影された動画映像を確認しましたが、事故車両の横を普通に通過できているので、交通量は相当にまばらであったようです。
現場付近の見通しなどについて、中央分離帯の茂みなどを指摘する声もありますが、概ね見通しは良いと考えられます。
比較的交通量もまばらで歩行者なども少ない道路状況から、どちらのドライバーも対向車には、十分な注意ができたと推測できます。
ニュース報道では、右折しようとした軽ワゴン車と対向車線を直進してきた大型バイクが衝突し、共に炎上したことが伝えられていました。
報道による近隣住民へのインタビューでは、「ドーン」という音が聞こえて見たら10数秒後には、煙と火柱が見えたとのことでしたから恐らく軽ワゴン車の3人は、逃げる間もなかったのだと考えられます。
後の報道で3人共に焼死ということでしたから、もし火が出ていなければ助かった人も居たのではないかと考えられ、とても残念ですね。
次は、事故現場となった国道50号線桐生バイパスについて、少し考察してみます。
国道50号線は速度超過がアタリマエの危険な道?
事故現場の国道50号線桐生バイパスは、長い直線が続いている速度を出しやすい道路です。
特に事故現場になった区間は、完全な直線、左右ともに農耕地が広がり、道路内外からの進入車両や人も見通すことができます。
従ってクルマやバイクは、「制限速度の60km/hを超過して走ることが常態化している」といわれ、今回の事故後も多数同様の書き込みなどが見られます。
実際に桐生バイパス原宿南交差点から原宿北交差点に向けて、制限速度を超える速度で走るクルマやバイクはかなり多く、概ねですが70~80km/hは出ているのではないかと思います。
実際、制限速度内で走行する車の方が珍しいかもしれません。
しかし、その先には、速度自動取り締まり装置(以下:オービス)が設置されているので、100km/h前後の極端な速度を出すクルマは、少ないようです。
確かに深夜早朝ともなれば、国道50号線では全体的なアベレージ速度が上がります。しかし、この区間では多くのドライバーが減速走行しているのもまた事実です。
また、今回の事故のように日曜や祝日の朝には、ツーリング目的のバイクも多く見られ競うように速度を出すドライバーもいるので、油断できない状況は常にあります。
確かにアベレージ速度の高い国道のひとつですが、この場所で事故が極端に多いとは聞きません。
しかし速度が高いということは、ひとたび事故が起きれば「死亡事故に繋がりやすい道路」という恐れはあり、今回4人もの命が失われ現実となってしまいました。
事故の当事者の両ドライバーは、住んでいる地域から推察すると国道50号桐生バイパス桐生バイパスを、恒常的に利用していたと考えられます。
つまり当該道路を速度超過で走ることに慣れていた、また、速度超過のバイクや車が多いことを知っていたと考えられます。
事故が起きてしまった今となっては、悔やんでも遅いのですが、どちらか一方でももう少し慎重な運転をしていれば、このように悲惨な事故は起きなかったと思います。
大型バイクの性能と20Mのブレーキ痕からわかること
今回の事故で直進走行していたバイクは、レース仕様の大型バイクといわれており、車種はカワサキのZX-10Rではないか?と噂されています。
報道では、海外輸出のレース仕様の大型バイクということでしたから、当たらずとも遠からずということで、当該モデルを例に考察してまいります。
「Kawasaki Ninja ZX-10R」写真で見るだけでもかなり高性能なバイクのようです。
わずか3秒足らずで0→100km/hまで加速し、最高速度は300km/h以上とのこと・・・ いわゆるモンスターバイクですね。
クルマで比べてみると日産GT-Rよりもさらに速いです。
大型のレース仕様というと、バイクをあまり知らない人には、「危険なバイク」とイメージされてしまうかもしれません。
しかし実際は、大変優れた能力を持つバイクであり、一般的なモデルと比べて加速が良いのはもちろんですが、それ以上に優れた制動力を持っています。
簡単にいえば速度も出るし、ブレーキも良く効くバイクというわけです。
20Mのブレーキ痕から分かること
ブレーキ痕が20Mに渡って路面に残されていたそうですが、もし60km/h程度で走行していたとすれば、間違いなく止まれただろうと思います。
一般的なバイクの停止距離は、50km/hで走行中のバイクで32Mとなっています。具体的には、「空走距離14M+制動距離18M=停止距離32M」になります。
空走距離は、障害物を見つけて制動をかける動作が行われるまでに走ってしまう距離です。制動距離は、実際にブレーキをかけている距離です。
つまりブレーキ痕は制動のかかった状態で路面に残るので、今回の事故で見つかったバイクのブレーキ痕約20Mは、概ね60km/h位の速度で走行していたのならば、止まれたのではないかと推測できるわけです。
すべてのバイクが同じではありませんが、少なくともサーキットにそのまま持ち込めるようなレース仕様のバイクであれば、上記の数値よりも少ない距離で停止できると考えられます。
もちろん、どんな優れたドライバーでも空走距離は発生しますが、バイクの場合、危険を認知してからブレーキをかけるまでの時間、かけ方については経験と技量で大きく差が付くでしょう。
もっとも輸出仕様の大型バイクを運転できる、ドライバーの技量も加味すれば、制限速度内なら止まれただろう、と考えるのが妥当です。
速度超過を物語るバイクの事故破損状況
バイクは、ブレーキ痕を20M残しながらも、軽ワゴンの車体が折れ曲がり横倒しになるほどの衝突をして、さらに軽ワゴンを乗り越えた5Mほど先で止まりました。
事故直後の実況見分の様子
さて、この状況は何を物語っているのでしょうか?
答えは簡単です。バイク側に著しい速度超過による走行の事実があったということです。
つまり、バイクが止まれずに高速度で衝突し、バイク、軽ワゴン車共に大きく損壊してすぐに火の手が上がったものだと考えられます。
バイクの燃料タンクは車体から引きちぎられたようで、火災が大きくなる要因となったようでした。
また、損壊したバイクを見ると前輪を支持するサスペンションは、大きく変形し通常の反対向きに折れ曲がっています。
バイクの破損と軽ワゴンの破損状態を加味して考察すると、バイクがぶつかった箇所は、フロントタイヤから垂直に軽ワゴン側面に衝突したようです。
バイクは軽ワゴンの車体に前輪部分をめり込ませながら右側面を、軽ワゴンの左側後輪と左側側面後部にぶつかり、その衝撃で後輪のアルミホイールが壊れてしまい外れています。
それでもなお衝突エネルギーは収まらず、バイクは軽ワゴンを下から引き上げるように押し倒しながら、左側面のルーフサイドをこすりながら変形させ、さらに前方に飛び出し、5M先に落下して止まったと考えられます。
なお、バイクは、衝突の瞬間に軽ワゴンを衝突地点から約10M押しながら、右回りに約90度転回させて横倒しにしています。バイクの衝突エネルギーの凄まじさを物語っています。
次に軽ワゴン車の状態を考察して見ます。
なぜ軽ワゴンは横倒しになったのか?車体の損傷からわかること
軽ワゴン車は、ほとんどが燃えてしまい車種の特定が難しいのですが、ダイハツ工業が製造する、アトレーワゴン、または、ハイゼットカーゴであることがわかりました。
また、群馬県太田市はスバルのお膝元なので、OEM供給されているディアスワゴンかもしれません。
強引な右折は難しい
クルマは、少し古いタイプの背の高い車体のワゴンですから、先の現場地図を見てもわかるとおり、中央分離帯の切れ目(約8M)をノンストップで強引に右折することは、重心も高いため難しいと考えられます。
運転者は、30代の女性で、60代の母親と10代の子供を同乗させており、一般的に考えて強引な右折をするとは考えにくい状況です。
写真のとおり進入する市道は幅員4Mと狭く、また、進入口の左右にガードパイプが設置されているため心理的な圧迫感があります。
進入の際は、勢いをつけて入りたくない道路ですね。
軽ワゴン車の被害者は、ここを右折するということに普段から慣れていて通常のルートだったのか、または、先にある原宿南交差点をショートカットするなど、急ぐ目的があったのでしょうか?
残念ながら、全員が死亡してしまった今となっては知るよしもありません。
左側後部ドア付近の激しい破損状況とクルマの強度
軽ワゴンの損傷状態を見ると、左側後部ドアの下部サイドシルからサイドフレームにかけて大きく圧縮変形しており、衝突時の衝撃がいかに凄まじいものであったかがわかります。
ショッキングな写真ですがよく見て下さい。
衝突時に一度、バイクの車体半分近くが軽ワゴン車の中に飛び込むほどの衝突だったということが推察できます。
しかしバイクの衝突エネルギーは軽ワゴンの破壊のみに収まらず、クルマは押し倒し、バイク本体はさらに5Mほど向こう側まで飛ばされて止まったようです。
私も多くの事故に携わりましたが、バイクとクルマの事故でこれほど凄まじくクルマが破壊されたものを見たことがありません。
インターネットでは、軽ワゴン車の横倒しや潰れ具合から、車体の弱さを指摘する声も聞かれますが、ダイハツアトレーワゴンの車体は、同社のハイゼットカーゴなど商用車系にも使われているので、車体構造は比較的頑丈なクルマです。
特に車体下部のフレームは、トラック商用車にとって要の部分でもあり、もっとも頑丈にできています。
しかし、今回の事故は、その部分を押し曲げるほどエネルギーが加わっていることがわかりますので、どれほどのインパクトがあったのかを検討してみます。
JNCAPの衝突試験結果との比較
幸い、同型車両の衝突試験の結果が客観的にも信頼できるJNCAPにより公表されているので見てみましょう。
側面衝突試験では、質量950kgの代車を55km/hで衝突させていますが、動画を見てもわかるとおり横倒しにはなっていません。
今回のバイクとの衝突と全く同じ条件ではありませんが、十分参考になる資料です。
「アトレーワゴン/ディアスワゴンの衝突試験の結果詳細」
http://www.nasva.go.jp/mamoru/car_detail/26
総合的な側面衝突の結果は、12点満点を獲得しており一般的な乗用車と比べても遜色のない強度を保っています。
また、ドアの開扉性や衝突時の燃料漏れについても十分な強度が確認されています。
なぜここまで潰れたのか?
今回のバイクの衝突ポイントは、センターピラーより後方の後部スライドドア中央の下部に応力が集中しており、一旦横向きになったと思われるバイクが軽ワゴンの車体を押し上げるようにして横倒しにしたようです。
恐らく、55km/h程度の速度で衝突していたなら、クルマは横転せずに済んだものと考えられます。
なぜなら、衝突試験の台車は950kgであり、バイクの重量は運転者を含めても300kg以下と予想されるからです。
およそ3倍の重量差があるので、衝突エネルギーも重たい方が大きくなります。
あくまでも推測の域を脱しませんが、やはりバイクの衝突速度があまりにも高かったことが軽自動車を10M近く押して横転させたのでしょう。
衝突による車体の変形と車体を押すだけでは、速度のエネルギーが吸収されず、クルマの屋根側を変形させながらさらに向こう側に飛んでいったことが決定的ともいえる状況です。
バイクは一体どのくらいのスピードでぶつかったのでしょうか?
衝突時少なくとも55km/hを超えるスピードであったことが、軽ワゴンの破損状況と衝突試験の結果から容易に推測できると考えられます。
事故原因は、バイクの速度の他に何が原因になったのでしょうか?
事故原因は軽自動車の直前右折?バイクの速度超過?
今回の事故は、バイクの著しい速度超過が被害を拡大したことは、現在わかっている状況から見ても明らかだと思います。
しかし、現場の国道50号桐生バイパスは往来のスピードが高く、右折することが危険であることを地元の人は知っていたと聞きます。
それなのにどうして軽ワゴン車の運転者は右折を開始してしまったのでしょうか?
双方の側から見た、衝突前の状況を考察してみます。
軽ワゴンから見た対抗車線の見通し
6月2日の産経新聞によると中央分離帯の植え込みが対向車線を見通す際の妨げになっていた可能性を指摘していますが、筆者は、そのようには考えていません。
右折車両の軽ワゴン車の車高は約187.5cmと軽自動車の規格内でもっとも高く、女性の乗車でも150cm程度のアイポイントは確保できていたと推測できるからです。
また、産経新聞掲載の写真を見ると車線を区分する境界線の破線が10ほど目視できます。
一般的に国道の境界線は、「6M塗って9M空け、また6Mを塗る」を繰り返しでペイントされています。
つまり、線(6M)と空白(9M)1セットで15Mということになり、産経新聞の写真からは、それだけで150Mが見通せていることになります。
写真の画角により、手前の線が2~3セット見えていないのですが、およそ200M近く先まで中央分離帯付近から見通せていることがわかります。
日曜日の晴れた朝で渋滞なども無かったようですから、交通量も少なく視界は開けており、見通しは良かったと推測できます。
バイク側からの視界も良好だった
先ずGoogle Mapのストリートビューのキャプチャにて、バイク側から見た交差点手前約50Mの地点からの画像を見てみましょう。
写真の位置から対向車線のワンボックスカーがハッキリ見えており、事故当時のバイクからもこのように視界は開けていたものと考えられます。
制限速度内で走行していれば、この位置からでも十分に停止できる距離であり、対抗右折車による不測の事態にも対処ができたでしょう。
軽ワゴン車の直前右折はなかったか?
軽ワゴン車の直前右折を指摘する声が後を絶ちませんが、バイクの速度が著しく高かった場合は、右折のタイミングを見誤る可能性が多分にあります。
例えば、バイクが60km/hで走行していた場合、100Mを走るのにおよそ6秒かかります。
しかし、100km/hで走っていた場合は、100Mを3.6秒となり右折するタイミングはわずかしかありません。
さらに120km/hからでは3秒、150km/hなら2.4秒です。
あくまでも推測ですが、100km/hで走行していたとすれば、右折する軽ワゴン車がタイミングを見誤る可能性はあるでしょう。
2台は路側帯側の左側車線上で衝突しているようですから、軽ワゴン車の右折が開始され、バイク側が気づいて制動をかけたが間に合わなかったという状況です。
バイクが100km/hから停止するための距離は、空走距離28M+制動距離84M=112Mが必要とされています。
100km/hで走行していた場合100M手前で対向車に右折開始されたら間に合わないことになります。
遠くの対向車から判断しにくいバイクの速度
普段からクルマに乗っている人でも100M先のバイクの相対速度を瞬間で正確に読める人は少ないと思います。
もちろん、200M先の車両でも近づく速度をしっかり見れば、自分が右折しても危険かどうかはわかることでしょう。
しかし、バイク側が急加速をしているような場合は、難しくなります。
特に100km/hに3秒あまりで到達する加速中のバイクの相対速度を見極めるのは、とても困難です。
従って、右折の際に遠くに見えるバイクがいたら、一拍おいてやり過ごすぐらいの余裕を持つようにして下さい。
強引な右折は、何の利益もないギャンブルにベッドするようなもので、無謀なチャレンジになるので絶対に止めましょう。
視界を遮る右車線のワンボックスカーやトラックに注意!
今回のような片側2車線の比較的アベレージ速度が高い道路で気を付けたいのが、右側車線を走るワンボックスカーやトラックの影に隠れて走っているバイクです。
今回の事故でも、その可能性が無いわけではありません。
もちろん、バイクの速度が高いということに変わりはないのですが、右折する軽ワゴン車が右側車線を走ってくるクルマに気を取られ、急いで右折しようとアクセルを踏んだ可能性も否定できません。
いずれにしても見えない範囲(死角)が存在するときは、クルマやバイクを前進させないことが最良の安全策です。ブレーキを踏んで待つくらいがちょうどいいのです。
基本的な過失割合と修正要素の検討
今回の事故は、典型的な右直の事故なので、過失の基本から双方の過失を検討し修正します。
クルマとバイクの右直事故の基本
今回事故現場となった、信号機による整理のない交差点における、クルマ(右折)、バイク(直進)の基本過失割合は、85:15です。
基本的な過失割合により直進車優先の基本原則が重んじられています。しかし決して0にはなりません。そこのところを勘違いされる方が多いのでご注意下さい。
もちろん右折車両注意義務に大きな責任があるのですが、直進するバイクにも対抗右折車両に対する注意義務が発生しています。
交差点では安全運転を心がけ、相互間で最大限注意することが必須と心得ることが大切です。
クルマの徐行なし バイクに-10
クルマの合図なし バイクに-10(★)
直近右折 バイクに-10
クルマの著しい過失または重過失 バイクに-10
クルマの既右折 バイクに+10(★)
バイクに15km/h以上の速度違反 バイクに+10
バイクに30km/h以上の速度違反 バイクに+20(★)
バイクの著しい過失または重過失 バイクに+10(★)
今回の場合で修正の可能性が高いものに(★)をつけておきました。
クルマ側の修正の可能性は「合図なし」程度と考えられます。つまりウインカーの出し忘れがですがあったとすれば、バイク側からの発見が遅れた可能性があります。
クルマの徐行なし、直近右折、著しい過失については可能性が低く、最大でも「合図なし」による-10の要素しかありません。
しかし、それを証明するにはどちらも当事者が亡くなっているため、第3者の目撃証言が必要です。
バイク側の修正は、クルマの既右折、バイクの30km/h以上の速度違反が検討されると考えられます。
さらに、衝突前の走行スピードが100kmを超えるなど、制御困難な速度による危険運転致死傷罪の疑いまでかかるようなら、「著しい過失、または重過失」の修正要素が加えられる可能性はあります。
今回の事故では、衝突時の状況を測る実況見分において、バイクは路側帯側の左車線上でブレーキ痕を残しており、衝突ポイントも左車線上で起こっています。
2車線分の幅、中央分離帯の切れ目の幅員約8M、市道入り口の幅員約4Mを検討すると、軽ワゴンが右折を完了した状態の真横から、ほぼ垂直にバイクが衝突していることは明らかです。
この状況によって、クルマ側の既右折、徐行、直近右折の否定ができると考えられます。
事故直後の現場には、バイクが進行してきた車線上に5台以上のバイクと1台のクルマが停車していました。
また、バイクの運転手に対し応急処置を施す人が居たことも証言されています。
従って、一緒に走行していた友人・知人がいたのではないか?と筆者は考えています。
ツーリングなどで一緒にレースまがいの走行をしていたとなれば、共同不法行為など別の問題が発生するので、一緒にいた人がいれば、とても難しい立場になります。
いずれにせよ、事故発生時の適切な目撃証言があることを期待しています。
バイクの衝突速度を探ることで、軽自動車の右折時の速度や姿勢などもわかってくるでしょうから、軽ワゴン車の遺族は、専門家による交通事故鑑定を依頼することが賢明だと思います。
交通事故鑑定による検証が必要な事故
世間の多くが右直の事故の場合、優先とされる直進車の過失が少ないと見ることでしょう。
しかし、民事訴訟における過失割合の裁定では、クルマの姿勢や速度など修正となる要素が加味されるので一概に右折車の過失だけが大きいことにならない場合もあります。
過失と修正については先に書きましたが、今回の事故のように当事者が亡くなっており、衝突直後の炎上や車両の異常な損壊状態から、このような状況下では、交通事故鑑定人による調査を依頼することをオススメします。
交通事故鑑定により明らかにできること
交通事故鑑定により、かなり正確に双方の衝突速度、向かっていた方向、事故前の速度などがわかります。
特に衝突時の速度は、民事上の過失責任を問うばかりでなく、現在は、刑事責任の処罰にも影響する大きなポイントです。
3人の親子は過失責任の割合により補償が大きく削られる
今回の場合、過失が大きいとされる右折車側に被害者が多いのですが、過失割合によって賠償内容がかなり低くなる可能性があります。
特に、今回被害を受けた3人の親子の場合、運転していた30代女性の過失が大きく問われた場合、亡くなった子供への賠償責任が生じないため、相手から過失相殺されたわずかな賠償しか受けることができません。
また、同乗の母親については、入院する夫の世帯にあり生計を共にしていなければ、娘の運転でも他人として賠償を受けられる可能性はありますが、同一世帯の場合、任意保険の対人賠償では保険金が支払われないこともあるので注意が必要です。
そのまま保険会社だけに任せるのではなく、交通事故を専門的に扱う弁護士への相談も検討して下さい。
法律の専門家に相談する
恐らく、加入している任意保険の人身傷害補償にて不足部分をある程度カバーされますが、運転者から見て賠償義務の発生しない子供や生計を一にする親の場合、相手の過失を確実に立証しなければ、後に大変後悔する賠償内容となることは明らかです。
不幸にもこのような事故の遺族や被害者となった場合、先ず適切な弁護士への相談と交通事故鑑定の依頼を行なうようにしましょう。
鑑定により物証が揃えることで、過失運転致死傷罪を危険運転致死傷罪で告訴することができるかもしれません。
弁護士費用の支払いは、任意保険に弁護士費用特約がついていれば、保険で対応できます。
今回のように運転者が亡くなっており、仮にその運転者が契約者だった場合でも、その親族により手続きが可能です。
ニュース報道では、運転者から見た父親が入院中の病院に向かう途中の事故だったという話もあり、なんともやるせなくなりますが、周りの人の助けを借りてでも出来るだけしっかりした対応ができることを祈っています。
今回の右直事故の原因は、双方の注意義務違反によるものだということは間違いのないところですが、死亡に至った主な要因はバイクのスピードにあることも明らかです。
従ってこの事故に限っては「右直の事故は、右折車が悪い!だから亡くなっても仕方がない」などという、暴論では片付けられないケースと考えています。
道路規制による対策措置とドライバーの心がけ
現場の安全対策
事故現場においては、安全対策が早くも進めており、道路を管轄する国土交通省に対し市政や地元区長から申し入れがなされ、中央分離帯を伸ばし、横断ができない(右折ができない)ようにすることで、事故の抑止に努めるとしています。
農道として利用する地域住民の理解を得る必要もありますが、「了承を得次第、工事に着手したい」としています。
記事の執筆理由
なお、今回の事故原因やクルマの損壊の経緯、過失割合などは、推察の域を出ません。
あえてこの事故を分析し参考に執筆したのは、ネット上の声に「直進車優先」が多く見られ、これは大変危険な考えであると思ったからです。
記事の内容については、賛否両論、様々な考えをお持ちの方がいると思います。
しかし、危険を察知していながら減速しない行為や制御できない速度で走ることなど、直進優先を主張することは、相手だけではなく同乗の家族など自らの命をも危険に晒す、大変愚かな考え方です。
直進優先を主張する人、右折側で直進車の速度超過を主張する人などあるとは思いますが、多くの場合、互いが見えている状況でありながらぶつかっています。
つまり右直の事故では、最初に見えた状態から双方が譲り合えば事故は避けられたであろうという事故が多いのです。
バイクは右折車が出てくることを予測した速度で走行し、早めの減速をしていれば・・・、また、軽自動車が直進するバイクやクルマをやり過ごしてから、余裕を持って交差点に進入していれば・・・、後悔は尽きませんが、ほんの少しの余裕をもてれば間違いなく避けられる事故でした。
私たちは、この事故から少しでも学び命を守る運転を心がけましょう。
記事の誤りに際してのお詫び
捜査が進むにあたり執筆内容が誤りとなる可能性もありますが、今回の記事の目的は、右直事故に対する注意喚起のために自動車保険のプロとしての意見を中心に書いています。
右直の事故で直進車優先を主張する前に注意義務を怠らず、危険を避ける運転をしていただけるよう参考記事として読んでいただき、事故の詳細について今後明らかになることによる誤りについては、ご容赦いただければ幸いです。
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