葉山死傷事故の懲役11年は重い?軽い?自動車保険のプロが答えます
2015年8月神奈川県葉山町一色海岸近くの県道にて、海水浴客の列に乗用車で突っ込み3人を死傷させた「稲葉竜也被告」に対し、懲役11年の実刑判決が、5月24日横浜地裁で言い渡されました。
この事件では、事故発生時から、ひき逃げや飲酒運転を隠蔽する偽装工作を施すなど、被告の自己中心的な行動に対し、世間からも非難の声が高まり注目されていました。
前回の記事:「なぜ懲役12年?葉山飲酒ひき逃げ事故に自動車保険は使えるの?」
https://hoken.mints.ne.jp/3449.html
自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷罪)と道路交通法違反(ひき逃げ)に問われ、検察側からは懲役12年の求刑でしたが、判決は1年短い11年となり、なんとも後味の悪い結果となっています。
記事では、一連のニュース報道などからわかった、求刑の実態と量刑のバランス、飲酒運転と飲酒運転発覚免脱罪適用の難しさなど、起訴や公判における不可解な点を掘り下げて考察してみます。
判決は重い?軽い?懲役11年の実刑判決!遺族の思いは?
判決では、「事故を起こした経緯は身勝手で酌量の余地ない」としながらも、懲役11年となりました。求刑の12年を下回った理由は恐らく、公判中に被告弁護側が訴えていた「反省」の姿勢と、本人からの「遺族への謝罪の言葉」があったからと推察しています。
しかし、「反省をしている」ということだけで、求刑を1年でも下回ることは、亡くなった被害者の命と遺族の深い悲しみ、これから先も障害を抱え生きていく被害者の苦痛に鑑みても、妥当とは思えず釈然としません。
判決に対しなくなった被害者の遺族であるご両親は、「刑の軽さにショックを受けている。危険運転の処罰を今後、もっと厳しいものにしてもらえることを心から願います」とコメントしています。
加害者のうわべだけの言葉で作る反省がわずかでも判決に影響するうちは、飲酒運転を起因とする「不埒者の事故は減らない!」と危惧してしまいます。加害者に甘い判決はコレきりにしてもらいたいと思いました。
また、言葉が過ぎるかもしれませんが、反省なら犬や猿でもできます。被告が本当に反省しているのであれば、公判中も情状などを訴えず求刑を受け入れる姿勢を見せて欲しいところでした。
自動車運転死傷行為処罰法に対は次の記事を参考にして下さい。
「悪質な運転者を許さない!自動車運転死傷行為処罰法とは?」
https://hoken.mints.ne.jp/1410.html
飲酒運転は争点にならなかった理由は?
事故当初から、ひき逃げや飲酒運転の隠蔽工作など被告側のずるさが目に付く事件でした。
警察や検察が被告の酒気帯び運転を立件することができなかったのは、事故当初からの被告の行動と、翻した証言の裏を取ることができなかったからだと考えられます。
事故後に出頭した直後は、「怖くなって自宅で酒を飲んだ」と述べていましたが、後に、保険金が降りなくなり借金を抱えることを恐れ、「ビールの空き缶を用意して帰宅後の飲酒を偽装した」と証言を翻しています。
警察側でも出頭直後のアルコール検査で、「酒気帯びの確認は取れていた」と考えられるのですが、「飲酒が事故の前か後か?」についてまで、確証を得ることができなかったのだと思います。
また、証言が翻されたことで「飲酒運転発覚免脱罪」の立件も危ういものとなりました。
結果として、危険運転致死傷罪の適用が間違いない「制御困難運転致死傷罪」と「救護義務違反(ひき逃げ)」で立件、起訴したのでしょう。したたかな加害者へ確実に罰を与えるための選択だったに違いありません。
危険運転致死傷罪についての詳細は以下の記事から
「危険運転過失致死傷罪による厳罰と適用条件」
https://hoken.mints.ne.jp/1409.html
救護義務違反(ひき逃げ)についての詳細は以下の記事から
「ご法度!ひき逃げの罪と厳しい厳罰」
https://hoken.mints.ne.jp/1408.html
12年求刑した検察は控訴するか?被告の控訴は?
懲役11年を不服として被告側には控訴する権利があります。
交通事故加害者への厳罰化は、この10年で進歩しました。従って以前と比べてより重い量刑が課せられるので、判決に不服を唱える被告もいます。
また、今回のように注目を集めている裁判では、検察側も控訴を検討するかもしれません。
しかし、他の危険運転致死傷罪の判決と比較してみると、12年の求刑に対し11年の実刑判決は、検察側にとって概ね満足できる結果です。
罪状に新しい「飲酒運転発覚免脱罪」が加わっていれば、検察も威信をかけて控訴するかもしれません。今回は立件が確実な罪状で求刑し一定の成果を見る判決を得ているので、検察側の控訴は微妙です。
筆者個人としては、検察側は控訴して安易な飲酒運転が招いた痛ましい事故の加害者を、許さない姿勢を見せてもらいたいと思います。
交通事故の裁判では、亡くなった被害者の訴えや権利は何も残されていません。せめて検察が被害者に代わり、加害者に対する厳正な処罰を訴える必要があると思います。そうでなければあまりにも不公平です。
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