森野氏のハンドル操作にミスはなかった!箱根死亡事故の現場と今後の調査
毎日起こる交通事故、今回は自動車評論家という肩書以上に、自動車をこよなく愛していた森野恭行氏が単独事故によってこの世を去りました。
森野氏のご家族へのお悔やみ申し上げると共に、心からご冥福をお祈りいたします。
この事故の原因については、現在警察の手に委ねられており、いずれ真相が明らかにされると思います。
事実確認と物証が乏しい現状において推察だけで、生前に自動車評論家として近年の自動車普及にも尽くした森野氏の功績までも貶める、辛辣なコメントがインターネット上に散乱し、とても残念に思います。
損害が拡大した要因にスピードが関係していることは間違いないようですが、その速度についても4月20日現在、メディアのインタビューによる曖昧な証言からの推察に過ぎません。
したがって当サイトは、この事故の明らかになっている事実を検証し、人身傷害保険、搭乗者保険の適用の範囲や条件など、保険に関係する事象にのみスポットを当て探って参ります。
箱根ターンパイクの事故現場の確認と事故後の状況
事故現場となった箱根ターンパイクの小田原方面への下り坂は、森野氏が自動車の試乗コースとして、数百回は走行したはずのある意味慣れ親しんだ道です。
筆者も自動車販売業務に関わっていた頃に試乗会などで度々訪れましたが、現場付近は、長い下りのワインディングが続く中のいわゆる大きく左にターンするカーブで、手前の直線の下り坂でしっかり速度を落とさないと大変に怖い思いをします。
衝突した事故現場は?
事故車両の進行方向から衝突したガードレールと桜をストリートビューで見る。
最後にぶつかったガードレールと桜は、左側の「400M先緊急退避所あり」の案内板から道を挟んで正面になります。
手前の右側にある駐車場は、本来下り車線からの利用が禁じられているのですが、度々マナー違反の車が右折待ちをする場所でも有ります。
手前の直線からはブラインドになっているため、道を知っている森野氏が十分な減速をしなかったとは思えず、謎を残すところです。
また、現場は地図で見ると直線ですが、実際の道路は左に緩やかなカーブが続いており、対向車のある状況でアクセルを踏み続けるのは、心理的にも難しいところです。
衝突時の状況
今回の事故では、数十メートル手前の左側ガードレールに車体の衝突痕がありました。
このことから、最後にぶつかった桜の木への衝突前に、左側のガードレールへの衝突と桜の手前にある右側ガードレールへの衝突があり、ブレーキの動作の有無にかかわらず、速度が2段階で減速されていることを意味しています。
しかし、桜の木に巻き付くように折れ曲がった車体からも、衝突時の速度が制限速度を超えていたことは容易に想像のつくところです。
[報道の動画サイト]
秋田朝日放送、4月12日「ポルシェ大破!箱根で試乗中、自動車評論家激突死」
https://www.aab-tv.co.jp/news/ann_shownews.php?id=000072371&cat=99
ガードレールは壊れやすい?
実際、制限速度の50キロ程度では、ガードレールの支柱が土台のコンクリートを残してちぎれてしまうことはありません。
自動車専用道路である箱根ターンパイクのガードレールは、走行中の車が道路外に逸脱することを防ぐ目的で、コンクリート支柱が設けられた、非常に高い強度の設計です。
筆者が実際に携わった事故処理の経験の中では、制限速度の50キロ程度でガードレールに直接ぶつかった事故でも、コンクリートに埋まった支柱を引きちぎることはありませんでした。
ガードレールの構造上、衝突車両の衝突エネルギーを吸収しながら曲がるのが普通ですから、ちぎれているということは、それだけ高いスピードで支柱に衝突したということが伺えます。
また、ガードレールへの2回の衝突により、衝突前の速度に比べて減速すると考えられるのですが、それでも車体の中央部近くまで立木が食い込んだ痕跡があることも、衝突速度の高さをうかがい知ることができます。
乗っていたポルシェ911GT3とは?
今回の事故で森野氏が乗っていたポルシェは、997モデルのGT3で2007年以降の初期型ではないかと考えられます。
911GT3はどんな車?
GT3は、サーキットに持ち込んで、そのままレースを走ることができるほど、走行にてしたモデルですが、一般道の走行も考慮された安全な車です。
もちろん、停止から時速100キロまで4秒もかからずに達する、400馬力を超えるパワーを持つ911GT3は、操る人の意志一つで異次元のスピードを引き出すことができます。ちなみに、このGT3にはターボなどの過給装置は無く、水冷ですがポルシェ伝統の3.6Lの自然吸気6気筒エンジンです。
現代のポルシェが誇る、究極のサスペンションシステムPASMも装備されており、RR(リヤエンジン・リヤドライブ)とは言え、究極まで高められたサスペンションは、高次元のロードホールディング性能が与えられています。
通常の一般道で走る限り、道路を逸脱することはありません。
外車は故障しやすい?
外車が故障しやすいという話は、もう20年も前のことです。現在のポルシェを始め外国車は、定期的なメンテナンスだけでほとんど故障なく走ります。
制動装置や電子制御スロットルは、走行時に車のコントロールがまったくできなくなるような故障が出ないように作られています。
現場の箱根ターンパイクの下りがスピードによる危険をはらんでいることに異論はありませんが、911GT3のブレーキシステムは、その程度で悲鳴を上げるような低レベルのものではありません。
それこそ、サーキットで300キロを超える速度からの減速も、安定的に繰り返すことができる強力なブレーキシステムですから、人為的な整備不良を除いては、ブレーキが原因で速度を調整できなかった、という考えはないでしょう。
搭乗者の死亡事故の現状
死亡事故は減ってきているとはいえ、ここ数年の減少率は低くなっています。
特に、自動車の安全装置の普及も著しく、パッシブセーフティを代表するエアバッグシステムから、アクティブセーフティの最先端、自動ブレーキや自動運転システムの普及もあって乗用車に搭乗中の事故で亡くなる人は、大きく減少していました。
搭乗者が亡くなってしまう要因の多くが、ガードレールなど道路工作物との接触です。それ故に、国土交通省においても道路脇工作物の設置基準や強度、衝撃吸収効果にいたるまで、細部にわたって研究されています。
立木がなければという人もいるかもしれませんが、立木が無ければ高速度でガードレールを突き破った車両が斜面を転がり落ちたことは、想像に容易いと思います。
既にお気付きの通り、ガードレールの外側の立木も道路外逸脱の防止柵としての役割も果たしているのです。
今回の事故でガードレールの壊れ方や立木の破損状況を見てもわかるとおり、道路の設計者や管理者の想定外であることは間違いありません。
とても不幸な死亡事故となってしまったことが悔やまれます。
搭乗者の保険は出るのか?
搭乗者用の保険は、搭乗者傷害の他、人身傷害補償保険があり、それぞれに死亡時の保険金が設定されています。
搭乗者傷害保険
この保険の死亡保障は、予め500万、1000万、2000万円などを設定することで、今回のような搭乗者死亡時に定額で支払われます。
人身傷害補償保険
この保険の死亡保障は、予め設定した保険金額を上限に死亡した人の収入などを元に、亡くなったことによる将来の逸失利益を計算して保険金を支払います。
搭乗者の保険が出ない?
搭乗者の故意や重過失(飲酒等)が明確な場合、保険金が支払われないことが有ります。また、搭乗者の著しい過失も保険金の支払に影響することが有ります。
尋常でない高速度で起きた事故の場合、運転者の故意による事故として捉える向きもあるので、難しいところです。今回の事故では、車の著しく高いスピードが何によってもたらされたのか?慎重に調査する必要があるでしょう。
ちなみに、ガードレールや桜の立木の損害については、対物賠償保険が適用になるので、支払いは可能です。
道路の状況から、管理者側は、速やかに道路復旧を行いその被害額を加害者側に請求すると考えられますので、対物賠償は運転者の過失として先行で処理して支払うものと考えられます。
森野氏はカーブでハンドルを切っていた!
今回の事実として、事故現場に達する手前の左カーブで森野氏が確実なステアリング操作を行っていることは明らかです。
カーブのブラインドを抜け、先の道が開けた時、何かが起きたのかもしれませんが、その手前から体に何らかの変調をきたし、なんとかステアリング操作を行ったが、その後力尽きたのではないか?とも筆者は勝手に想像しています。
いずれにせよ、スピードを求める先に痛ましい事故のリスクがあります。自動車は楽しいものですが、ドライビングは100%のマージンを持って行うようにしましょう。
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