盗難されたクルマによる人身事故の賠償責任は持ち主にもある?
持ち主にも生じる盗難車が起こした事故の責任
大切なクルマを盗難されたばかりか、その犯人が起こした人身事故の過失責任を持ち主に問われることがあります。
「そんな理不尽なことがあるの?」という疑問がわきませんか?
これは、一見理不尽な話しにも聞こえますが、事故に至るまでの経緯や事故発生時の状況を踏まえて見ると、所有者にも責任を負うべき過失があることが分かります。
事故の状況について、順を追って見てみましょう。
自宅の近所のコンビニで盗難された
盗難事件は、所有者Kさんの自宅近くのコンビニエンスストアの駐車場でおきました。
Kさんは、仕事の帰り道の途中でそのコンビニに立ち寄り、日用品を購入するのが日課となっています。
毎日にように立ち寄るため、その日もコンビニエンスストア併設の駐車場にクルマをとめて、お店に入りました。
その日は、真冬で寒かったこと、少し急いで帰りたい気持ちが有ったこと、レジに並んでいる人も少なく「買い物は数分で終わる」と思ったなど、色々な都合が重なり、Kさんはエンジンをかけたままクルマを離れてしまいました。
レジが少ないということは、周辺に人も少ないので車両を盗む側から見れば、好都合です。
実のところ車両盗難の多くが、キーを付けた状態で持ち主がクルマから離れたわずかな隙に盗まれています。
この日のKさんの軽率な行動から盗難事件を呼び込んでしまいました。
しかし、盗まれると同時に犯人がクルマを後退させる際に、走ってきた自転車のMさんと衝突してしまいます。
真冬で寒かったことから、自転車の運転者が冷たい風を避けるため、顔を伏せて運転していたことがクルマの後退の発見を遅らせ、衝突してしまったのです。
盗難した犯人は、慌ててクルマをおりてそのまま走って逃走、その時点で店舗の外が騒がしいことに気がついたKさんが見た外の光景に驚きます。
自分のクルマが自転車とぶつかっていたのです。
自転車のMさんは救急車で運ばれ、Kさんは人身事故の実況見分の場に残り盗難前の状況から事故発生時の状態まで、色々聞かれます。
幸い、犯人がKさんのクルマに乗りこむところから、事故発生までを見ていた目撃者があり、Kさんが運転していないことを証言してもらえましたが、警察官から持ち主にも事故の責任の一端が有ることを伝えられ、違反等については捜査してからということで、その場の事故手続きを終えました。
クルマの持ち主や運転者の責任
今回の人身事故では、Kさんに責任が有ることは、多くの人が理解できると思います。
ポイントは、車を離れる際にエンジンを切って施錠をしなかったことになるでしょう。
事故の原因をKさんが作ったと言っても過言ではないほどの過失です。
法的には、運転はしていなくてもクルマを所有管理していたKさんの「運行供用者責任」が問われ、それにともない、対人賠償保険の適用が可能な案件です。
しかし、Kさんは、「本当は犯人がぶつけたのだから犯人が検挙されれば、その犯人に払ってもらいたい」と考えていました。
しかし、手続きに来た保険会社の担当者に次のように言われます。
「ケガをした被害者は、犯人以上にキーを付けたままクルマを離れたKさんに対し憤慨しています」
そこで、Kさんは、自身の軽率な行動が盗難事件を呼び込み、結果としてMさんにケガを負わせてしまったと気が付きました。
自賠責法による人身事故の賠償責任
Kさんがキーを付けたままクルマを離れたことで、犯人が盗難することを思い立ったのは事実です。
だからといって犯人の盗難の罪や事故の過失責任が無くなるものではありません。
Kさんはまだ捕まらない犯人との過失責任の割合などを考え、保険会社に確認します。
「Mさんへの補償は、自分の過失分だけが支払われるのですか?」
保険会社担当者の回答は、「今回の事故では被害者Mさんの過失責任はありません。過失は100%加害者の盗難犯とKさんにあるので、保険から100%支払います」
自賠責法の考えでは、被害者に対し加害者は各々に損害賠償責任を不真正連帯債務として負うことになります。
過失責任の割合は次のような考えになるので、Kさんの保険で対人賠償が可能になります。
自転車Mさんの過失0%
盗難犯の過失100%
Kさんの過失100%
つまりは、「クルマ側の責任が100%」ということで、そのどちらでも相手にして、Mさんが損害賠償を求められるようになっています。
シンプルに考えてみれば、被害者側からみて賠償してくれる相手は、盗難犯とKさんのどちらでも良い話です。
自賠法は、人身事故被害者が適切に賠償を受けられるよう作られています。
今回の盗難事件に端を発する人身事故では、Kさんは盗難犯の起こした事故の片棒をかついだ形となってしまいました。
確かにMさんから見れば、共犯とも言える存在です。
片や盗難被害に有ったKさんの立場からすれば、踏んだり蹴ったりの話しでした。
しかし第三者からみれば、それがクルマの運転と所有にかかわる責任ということをよく分かる出来事でした。
わたしたちもついやりがちな、キーを付けたままの作業や駐車は、思わぬ危険をも孕んでいます。
クルマの管理には、注意しましょう。
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